おれはかつてないほど悩んでいた。
しかも、年頃の男としてどうかと自分でも思うような内容についてだ。
いや、ちょっと語弊があったかもしれない。えぇと、普段の生活や自分のことでならいくらでも悩んだことがあるけど。
付き合ってる男の誕生日に、何をあげたものか悩むのはさすがに生まれて初めてだった。
田島の誕生日は以前、三橋の誕生日をした時に聞いて知っていた。
というか、特に覚えようと意識したわけでもないが、どういう性分か、短い数字の羅列や
ちょっとしたどうでもいいことなんかが頭の片隅に残ってしまう性格らしい。
春には(うえ、あと半年くらいじゃん)とカレンダーを見て眉をしかめ、
先月の9月16日には(やべー・・・あと一ヶ月しかないじゃん・・・!)と考えて一人で焦っていた。
今週に入ってからなんて、授業もうわの空で時々友達に「眉間にシワよってますよ〜」と
からかわれる始末だった。
前日である今日の練習も気を引き締めてやったつもりだが、多少気が緩んでしまった感が否めない。
田島はいつもの田島だし、周りも周りで、ソワソワしたりはしていなかった。一人を除いては。
「た、たじまくん・・あした・・た・・・たん・・・・」
「あ?明日ァ?・・明日ねー、オレ、明日誕生日なんだ〜!」
三橋がしどろもどろに紡いだ日本語を田島が引き継ぐ。
周囲は「あーあ・・・」「さすが三橋。」という呆れとも諦めともつかないようなムードが漂う。
おれはつい、田島と三橋の会話に耳をそばだてていたためにちょっとびくっとしてしまった。
バレてませんよーに・・・
すると三橋は周りの反応など意に介さぬように(というかきっと気付いてない。)
「あ!う、うん!知ってる・・・!おめでとー、・・・明日だけど、」
と言った。最後に小声でちょっと付け加えたのが三橋らしい。
「まじでー?サンキュ〜。でもねー・・・・・」
ニコっと満面の笑みを浮かべた田島は、そのまま三橋の方から肩越しに、
ひょいっと視線をおれの方に向けた。それは明らかに、おれに目配せというやつをしていて。
(うわぁー・・・)
(えぇー超こっち見てるー・・・!)
三橋以外のほぼ全員から視線を向けられ、なんなんだこの空間は・・・!とか、
穴が有ったら入りたいような勢いになってしまった。
しばらく三橋がその場の静寂を(腹の音で)破るまで、沈黙は続いた。
阿部などは明らかに達観したような嫌らしい目で見てきたので、何ともやりきれない気持ちになる。
ていうか田島も何か話せよ・・・!
結局、店も閉まりそうな時間なのに田島が何を欲しいのか、何をしてほしいのか、
聞き出すことは叶わなかった。
最終的に、もうシャッターが閉まりそうな店に駆け込んで、昨晩寝付けるまで悶々して悩み悩んだ
品物を買った。きっと、価値観が同じということはなくっても、自分が貰って嬉しいというものなら、
田島に渡しても悪くないんじゃないか?と思ったから。
そのうち二つは野球用品で、使用頻度が高くおれたちが欠かすことのできないものを選んだ。
寝る直前に、ベッドの中で田島に
『明日、用事あるから部活終わったあとちょっと部室残れよな。』
とだけ打って、メールの返事を待たずに電源を落として眠りに落ちた。
無事悩みの種が解決したので、何かがふっきれたように授業にも部活にも打ち込めた。
確かに、田島の反応が気になるっていえば気になるけど、だめだったらそれはそれで。
けれど、朝起きると田島からの返信が『んー?わかった。』ときており、ちょっとだけ田島の反応が
気にもなったし、付き合ってる奴(しかも男。)にプレゼントを渡すなんて生まれて初めてなので、
何言おうとかちょっとだけ考えてしまった。
おれの焦燥感とか余裕のなさが顔に出てたのかもしれないけど、モモカンが
「明日月曜だし、遅くまで残らないで体休めるのよ〜」と言ったせいで、部活の終わったあとは
各々が田島への祝いの言葉やら部員で買ったプレゼントなどを贈り、その場は解散した。
あとは、着替えが普段より著しく遅い、おれと田島ふたりだけ。
自分たち以外だれもいない空間の、重い雰囲気に耐えられず、とうとうおれから話しかけようと思っ
た瞬間。
「ねーねー、用事ってなに?」
田島が軽い口調で聞いてきた。
「わ、わかってんだろ・・!」
「え〜、うーん・・・祝ってくれるとか?」
破顔した田島を見て、勝手にはりつめていた気持ちがとけていく。つられて、
「そーだよ。・・・誕生日、おめでとー!」
笑って、そう言った。
それから田島は、過去に家ではどのような誕生日を送ってきたかについて話した。
大家族はでかいホールのケーキを買ってくるとカットの量が半端ないために、一人一人の取り分が
相当少なくなるらしい。
だけど、今年は家でも部活の皆とも食べられるので一石二鳥ってかんじー。
などと言っていた。着替えながら話す田島は嬉しそうで、大家族っていいなとか、
楽しい誕生日を迎えてこられたのもあって、今の田島がいるんだよなぁ。とか、感慨深くなった。
「あ、あのさ、プレゼント、おれからも用意したんだけど。」
すっかり着替えも済んだ田島に、鞄から包みを取り出して言う。
「まじでー?嬉しい!!」
田島は、花井と皆から貰ったのと花井ピンで貰ったの、二回も貰っちゃって悪いな〜!
と、ちっとも悪びれてなさそうな顔で受け取った。
何かな何かな〜!と、目の前で早速ラッピングを解き始めた。
「お!いつも使ってるテープとクリーナー!サンキュ!あとー・・・あ!これ、花井が持ってるカギのやつとお揃いじゃん!!」
「うん・・・ちょっと前に、おれんち来たときにおれのカギ見て、いいな〜、って言ってたからさ。」
おれは悩み悩んだ末に、田島が普段使っている皮磨きとテーピングテープ、
それからおれが家のカギにつけている、ロケットの形を模したキーホルダーと同じものを買った。
冷たい鉛の重みが手に馴染んで心地良いそれは、真偽のほどは解らないけれどNASAが作った、とかいうふれこみで、毎日の部活でバイトができない中、なけなしの小遣いをはたいて買ったものだった。
ようやく買えたときは嬉しくて、毎日使うカギに付けた。独特のフォルムが愛らしく、それでもかっこよくて、
(田島って野球選手になんなかったら宇宙飛行士とか目指してたりしてたかも)なんて考えたこともあった。田島も喜んでくれるかは解らないけれど、田島も一度は宇宙飛行士に憧れたことがありそうだ。という勝手な解釈をした。
もしよかったらだけど・・・田島もさ、今は違くても少ししたら家カギとか持つようになるだろーし・・・
ぶつぶつ呟くおれに、
「ん!もしかしてコレっておれと同棲してください、ってこと?!!」
と察しがいいのか悪いんだか、とりあえず的はずれなことを言ってきた。
思わず真顔な田島についふきだしてしまって、
「ちげーーよ!・・・前に田島がいいなっつってたし、おれが貰って嬉しいもんを渡そーと思ったの!
だって・・・田島、なんも言わねーんだもん・・」
と言うと、
「え、何も言わないって何を?」
「な、なんで何ほしーとか言わねぇの。いつも皆に、エロ本ほしーとか言ってんじゃん!」
二人っきりの時に限って何も言わないのズルい、とつけくわえて。
・・・すると田島は目を真ん丸にして
「えー?だってさー、花井がいればエロ本なんてぜんぜんいらねーもん。」
と、さも当たり前のように、何でそんなこともわかんないんだよ!と言いたいような顔をしていた。
「ハァ?!!それってどういう・・・」
真意が解らないおれの顔を訝しげに眺めて、花井といる方がたのしーし、ドキドキしてるってこと!
なんて、耳に口を寄せて囁いた。
思ってもみなかった行動に、思わず耳を手でふさいで数歩後ずさったおれを無理矢理胸に抱え込む。
「プレゼントなんて、くれなくてもよかったのに。花井と過ごせるだけで、最高だったのにさ!」
・・・・・想像していたより嬉しい言葉が聞けて、幸せで胸がいっぱいになってしまう。
ちょっとだけ鼻の奥がツン、としたけど、恥ずかしいので憎まれ口をたたく。
「身長も少しくらいは分けてやったほうが良かったかもな?」
「え、う・・身長は・・・。・・・来年の今日には花井を追い越してる!はず!!」
なんて無理っぽいことを言ったが、そんな田島もめちゃめちゃ可愛かった。珍しくしどろもどろになった
田島が新鮮で、つい笑みがこぼれてしまう。田島もそんなおれを見て、なんだか本当に嬉しそうだ。
つられて二人で爆笑する。
大切な日を、田島と二人で過ごせてよかった。改めて、田島と出会えて幸せだなーと思う。
最初は、喜んでくれるか悩んでぐるぐるしていた自分が何だかおかしくて、でもそんなのも全部
田島の笑顔を見たらふっとんで、あわよくば、田島の記念日をこれからも一緒にすごせますように、
なんて祈ったら、めのまえで田島が
「これからずっと誕生日を花井と迎えられますよーに!」とか言ったものだから。
満面の笑みをうかべた田島に目が釘付けになる。そんなん、おれだって一緒だよ。
今度こそ本当に泣きそうになってしまい、ぎゅうっと背中を抱き締める手に力をこめた。
うまれてきてくれて、ありがとー。
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なんていうかいたたまれない感がいっぱいです(嘲笑) 心底酸っぱい。
文才は皆無ですが、田島様を祝う気持ちだけはだだ漏れです!
来年も祝えますよーに!
田島様、おたおめでしたー!早く身長も伸びるといいですねv本誌の活躍も楽しみー。
(以前に同じような結末を書いた悪寒がしましたが、気にしない方向で書き上げました。負け犬!!)
(そういえばプレゼントがトンチキですみません…。両手いっぱいのエロ本はきっと梓が調達の時点で耐えられない。
大人のおもちゃもそうに違いない。
ロケットは、かつて私が友達にあげて大喜びされた過去がw野球用品は友達に聞きました…!ありがとー!)
05.10.16
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