うちのメイドは、主人よりも主人らしいメイド。
炊事洗濯、掃除に、早起き。何一つ満足にこなせるものはないけれど、
おれにとっては暴言癖がたまにきずの、かわいいかわいい、家族の一員。
―――……ん?……、!!ワーッやべっヤバッもう秋丸の出る時間じゃねーか!
どたばたどたばた…壁が薄かったら近隣住民に朝っぱらからさぞかし迷惑だろうと思うけど
そんなことに気を遣ってる時間はなくって。
無遠慮にドスドス走っても埃のたたない、立派な毛足の長い絨毯を駆け抜けて
一階のダイニングに向かう。起き抜けにいきなりの運動だけれど、これがまたよく
繰り広げられる光景なんだよな。少なくとも、ひどい時には週の半分とかを占める。
あー…ちなみにおれは、この家のメイドなわけなんだけど。
「あ、オハヨーよく眠れた?じゃあ、行ってくるね」
「!!バ…!!」
「あ、朝ごはんなら出来てるから。余ったら冷蔵庫に入れと…」
「っ!ちっげーよバカ!何でいつもオマエってそうやって!」
「ふふ。榛名は気にしなくていいよ。じゃあね、行ってきます」
「!待てよ!」
おれの話を軽く流した秋丸は、おれに背中を向けてダイニングからひろい玄関に
向かう。…そりゃあ、おれとケンカしてたら遅刻してしまう可能性があるって知ってたけれど。
知ってたけど、…寝坊したおれがいけないんだけど。
何だか無性に悔しくなって、後姿を見せてる秋丸の首根っこを鷲掴んでおれの顔のほうに向け、
そのままむりやり奪うようなキスをした。
「っ、オマエむかつく!…オラ、行ってこいよ、」
「…ありがと、戸締り気をつけてね」
「お、おう。あー…あと…昨夜の約束忘れんなよ!」
「?あ、早く帰ってくるってやつね。わかった。善処するよ」
そう行って、秋丸は家をあとにした。おれは昨夜、ずっと言おうとしてたけれど何か気恥ずかしくて
なかなか言えなかった話をようやく持ち出した。決死の覚悟というやつだ。
「あー…えーと…」
「何?」
「あー、明日。早く帰ってこいよな。」
…それだけしか言わなかったにも関わらず、言葉足らずなおれを、秋丸は解ってくれたようで。
嬉しそうにわらって、きゅっと抱きしめてきた。あいつは、おれの主人のくせによくおれに構ってくる。
甘やかしたり、いきなり抱きしめてきたり。
……何だかよくわからないけれど、きゅっとだきしめられたりキスなんてしたりすると、同性とは
解っていても胸がつきつきするっていうか、まんざらでもないっていうか胸が無駄に高鳴ったり。
昔仲良くしてて今でも連絡とってる他の奴は、主人にそんなことされてないようだし。
…そりゃあな。さすがにな。同性にはな。
そもそも主人とメイドの立場が逆になっているなんて話、今も昔もきいたことないぞ。
毎日楽しくて、幸せだなぁって思うけど。おればっかいい目見ていいのかなぁって時々考える。
―――…メイドって、こんなんでいい…わけない!
なけなしのやる気をふりしぼり、週末のあいつの誕生日にあわせて何か作ってあげようと
思いついた。プレゼントはまぁ…そのうち考えよう。
そんなこんなでボーっと何もしない主婦みたいな生活を送っていたら、いつの間にやら
当日になってしまったという罠。…やべ、まじ何もしてねー…。
……誕生日っつったらやっぱケーキだよな。おれがもらっても超嬉しいし!
…料理できないけど。こうなったら最終手段、姉貴に聞くというのが一番手っ取り早い。
「あーねーちゃん?ケーキ作りてーんだけど。誕生日の。うんうん。え、あ、うん。」
おれと性格が似てせっかちな姉貴は、用件が済んだらさっさと切れといわんばかりに、
もう終わり?切るよ、とか言ってきた。ま、いいけど。
どうやら、姉の話によるとケーキを作る上で一番簡単な方法は、市販のスポンジとクリームを
買ってきていろいろフルーツやらを飾る方法らしい。
以前、クッキーでも作ってやろうと思い立ってキッチンに立ったものの、くしゃみでそこら中を
粉だらけにしてしまったことを不意に思い出してしまった。あれも結局、見かねたあいつが
掃除を手伝って(というかほとんどあいつが。)くれた。けど…いやさすがに今回こそは…。
決意も新たにして、とりあえず朝飯でも食ってから近所のデパ地下でも行ってこようと思った。
どうやら、メイドの榛名が何やらおれの誕生日にあわせて画策しているようだ。
昨夜の榛名の挙動不審っぷりを思い出して、一瞬噴き出しそうになった顔をむりやり正す。
電車内でいきなりプッ、とか言ったらそりゃもう不審な目で見られるに決まってる。
あいつはメイドといってもタメだし、主従関係っていうよりも何か主従逆転というかすっかりこっちが
尻に敷かれているというか。ご主人様!とかそういう関係は全然なくって、友達みたいな、
家族みたいな関係になって、かれこれ数年たつ。
例年はプレゼントを用意してくれていたが、今年は一体何をしてくれるのだろう。
まだ目的地に着いてもいないのに、早くも帰りたくなってくる気持をおさえ、改めて緩みそうになる
顔をひきしめた。
「あー…なんか…それなりの形になったかも…」
キッチンに立って数時間経ったくらいだろうか。それっぽいものがようやく完成した。
それなりの形も何も、既成品のスポンジを使っているわけだから変形とかされても困るけど。
ちょっと自分でもびっくりするくらい集中して生まれて初めてのケーキ作りを満喫してしまった。
目の前の、贔屓目に見ればまるで芸術品のようなケーキを眺めた。
……おれって…天才かも…
自画自賛しつつ、いまだかつて味わったことのない充足感を感じる。
…あー俺何やってんだろ。っつうかメイドなんだけど…てか、普段からちゃんと料理してれば
こんな気持になんだろな…。新たな自分の一面を発見してしまい、ちょっとした幸せをかみしめる。
自分の為じゃなく他人の為に、しかもそれが、秋丸の為にした、っていう事実が嬉しくて。
慣れない料理に最初は戸惑い、終わった今となっては軽い肩の凝りなんかも残ってしまったけど、
普段それだけ家事してねえってことだよな…。と気付いて、つい苦笑してしまう。
……仮にもメイドなんだし、料理も少しづつ覚えてかないとな。
そんなことをつらつらと考えていると、外が暗くなってきた。そろそろあいつが帰ってくるかもしれない。
あいつはこのケーキ見て、なんていうかな。どんな顔をするんだろう。
秋丸の間の抜けた顔を想像していたら、ついおかしくて笑ってしまった。早く、早く帰って来い。
「ただいまー、」
「あっ!おかえり。ってか!コッチこいよ!ほら早く!!」
いきおいよく飛び出してきた榛名にそのまま腕を掴まれ、ダイニングへと半ば引き摺られるように
連れてこられた。何か甘ったるい匂いがしている。目の前のそれは、誕生日には定番の。
「どーだこれ!やばくね!」
「わぁ、それどうしたの?」
「聞いて驚くな!俺が作った!…って、市販のやつに飾り付けただけだけど。」
「!!ほんと!榛名にしては上出来だよ!確か昔、図工とか壊滅的な成績だったよね」
「…うるせー!黙ってさっさと食え!」
嬉しいよ、とありったけの気持をこめて言うと、榛名は恥ずかしそうに首のうしろなんかを
掻きながらあー、とかウン、とか要領をえないことを呟いた。
「…っていうか、ごめん。ケーキしかないんだけど。後は適当に美味そうなの買ってきちった。」
「あーうん、全然構わないよ。」
「…料理、これから頑張る。つもり。」
…今日、榛名は榛名なりに何か思うところがあったのだろうか。珍しく殊勝なことを言ってくる。
「ふふ、そうだね。ちょっとずつでいいから。じゃあ俺着替えたら何か適当に暖かいのでも作る、」
「!バカ!今日オマエの誕生日だろ。座ってろよ。」
「…でも、ケーキと肉しかないじゃない。」
「………。」
「ね?」
言い返せない榛名を黙らすために、矢継ぎ早に言葉を重ねる。折角の榛名が作ってくれた
ケーキ、榛名が俺の為に作ってくれたと思うだけで、味なんてどうでもいいと思えてくる。
すると、しばらく無言だった榛名がとんでもない提案を切り出した。
「…じゃあ、ケーキだけ食ってよ。おれ、プレゼントなんて用意してないもん。おまえのいうこと
聞いてやるよ。…今日だけだけど。」
「またまた。そんなこといっちゃだめだよ。」
「っ、ちげーよ!何で本気で思ってるのに否定すんだよ。」
必死な榛名に申し訳なくて、今まで思ってて言えなかったことを聞いてみてもいいかな、と思う。
「―――…じゃあ、一個聞いていい?」
「うん。」
「榛名、うちに来てよかったと思ってる?」
「なんでそんなこと聞くわけ」
「俺、榛名のこと手放す気なんてずっと前からすっかりなくなってた。
――…自分でも、なんて器量の狭い男だろう、って思うけど。
でも、それが榛名にとってはどうかな、って時々考えちゃって。俺みたいな利己的な奴と一緒に
いて、榛名の幸せになるのかな、とか考えたり。」
「―…バカ。俺だって、おまえのこと、もうずっとずっと前から…っ、」
「……ごめんね、変な事聞いて。」
「オマエっ…今度そんなこと言ったらブッ殺すからな…」
「うん、ごめんね。」
目のふちを赤くして俺の肩口に顔をうずめてくる榛名をそっと抱きしめて、その体温を享受する。
いくら補っても余りあるほどに愛おしく感じる榛名への想い。けれどそれも一方通行でなく、
榛名も同じくらいに想ってくれているらしく。……それって、なかなかすごい事じゃないか?
あー…幸せな誕生日だなぁ…おれ、今まで生きてきてよかった…
「…声に出てるっつうの…」
「あ、ごめん。」
「…っていうか、」
「うん?」
榛名は何かおもうことがあるのか、ぐずぐず鼻をいわせながらも一生懸命言葉をつむぐ。
「俺だって、いっつもいっつも、俺みたいなだめメイド、いつ秋丸に要らないって言われても
しょうがないかもって思ってた、けど…」
「そんなことな…」
「…オレが主人の側なら、こんな使えねぇメイド、ぜってー置かねーもん。」
「…あー…いやまぁ、そういうこともあるかもね」
「!やっぱオマエだってほんとは!」
「違う違う。誰だってさ、目の前の好きな子が一生懸命頑張ってるのに、それを
ないがしろにできるわけないでしょ?」
「好きって…」
「まあ正直、榛名じゃなかったらとっくに愛想尽かしてるよ」
「・・な、なんでオレだけ・・・」
「え。好きだから。」
「……オレも、」
なんだかよくわからないけれど、とりあえずは相思相愛ってかんじで何か。
甘やかされるだけじゃなくって、俺からも少しずつ、秋丸に返していけたら、って思う。
気遣いに慣れすぎて、ないがしろにしてしまわないように、大切にしていこうって思った。
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…あーこれ…開始3行目でかわいいかわいい言ってる辺りで既にリタイアされてしまった
方も多いんじゃないか…すみません…。 それ以前にキャラ違くてすみません…
こいつら野球してるのか…?とか一体どのような雇用関係が結ばれているのかとか
秋丸は社会人なのか学生なのかなども謎が…
でも真剣に考えていったら長期連載とかいうアイタタなことになりそうなので止めました…。
しかも毛足の長い絨毯のある屋敷って一体。日本家屋でもいいし洋館でも何でもいい…
秋丸と榛名がいればいい…(極論)
私の中の秋丸は、普通に榛名のことをよく考えて気にかけてて欲しいイメージ。
俺なんかでいいのかなってたまに思ってほしい(この乙女が!)
色々というか全般にわたってあいたたたで申し訳有りません…自分でも最早どこから
つっこめばいいのやら…。メイドあきはるは、疑心暗鬼とか常に言い出せない不安とか
そういうので日々うだうだしててほしい…呼吸困難みたいになってほしい(…)
身体の関係はどっちでも…主従関係もえなんですよね…。いい…。
私の妄想では全くもえませんが…。
こう、フィ〜リングでもって察してやってくださると嬉しいです!無理ですよね!
いきなりメイドとかいわれてもな!★
とまあそれはさておき、秋丸恭平くん!3月12日、お誕生日おめでとうございます!
(2005/03/12)
[RED
LETTER DAY]
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